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「失いし者たち」 第三話

まず謝る
遅れて大変申し訳ございませんでしたぁぁ!!


ボリュームはいつもの2倍くらいです_(:3」∠)_


言うて、クオリティの保証はどこにもないけど(そりゃそうじゃ)


でも、本気です_(⌒(_'ω')_




さて、今回からなんと視点が変わってしまいます。ハイ。


正直オムニバス進行って難しいからやだなぁとか思ってましたが案の定でした。でも面白かった_(⌒(ノシ'ω')ノシ


ダブル主人公です_(:3」∠)_


これでひと段落やぁ・・・


ではでは、本編は追記展開からどうぞ!


「またか!!何度同じことを言わせれば気が済むんだ!!このゴミクズめ!」

と、大きな声で怒鳴りつける。怒鳴りつけられているその先にいる何かは、ただただ、「申し訳ございません、ご主人様。」と、頭を下げている。
「ゴミクズ」と、人に対する人権が保護されるべきと騒がれているこの世の中、こういった発言は明らかに人権を無視した発言である。
ただし、それは人間に限った話のことだ。この世界には人間だけでなく、龍や獣人といった、人間から大きく形の異なる種族だっているのだ。そんな中、種族ごとの差別は起こってしまうものだった。
現に、今もこうして奴隷として働いている仔龍だっているのである。先ほどの仕置きとして、鞭で身体のあちこちを叩かれるのだ。もちろん痛いだろう。だが、奴隷主である者にとってはそのような感情は関係ない。まるで普段の怒りの憂さ晴らしの道具かのように、異種族を「使う」のだった。

「兄さん・・・大丈夫?」

鞭で身体を叩かれて、あちこちの部分が腫れたりしている。出血している部分もちらほらと見られる。

「大丈夫だ。・・・っ!!もっとやさしくやってくれ・・・!」
「あ・・・ごめんなさい・・・。」

一匹の仔龍は、もう一匹の怪我を手当てしているようだ。

「今日も・・・やられたの?」

怪我の手当てをする一匹が心配そうに問う。

「ああ・・・ちょっと余計なことをしちまっただけさ。」
「そう・・・。これ以上怪我なんてしないで・・・兄さんが死ぬようなことがあったら、私は・・・」
「わ、わかったよ。今度からは余計なマネはしないでおくよ。約束する。だから、泣き顔を見せないでおくれ・・・」

怪我の手当てで、身体のあちこちにバンソーコー貼り付けた一匹は、すっと立ち上がり奴隷身分を示す首輪をして、また自分の持ち場に戻っていくのだった。






そして、ある日のことだった。
この家にいる奴隷は、怪我の手当てをした一匹、主人に怒鳴られていた一匹の他に、もう一匹いるのだが、この日はその一匹に関わる出来事で、主人はたいそう怒っていた。

「もう一度言ってみろ!!」
「ああ、何度だって言ってやる!俺の名前はちゃんとあるのだから、その名前で俺のことを呼べって言っているんだ!!」

どうやら、他の二匹はこの場には居合わせていないようだ。

「ほう・・・奴隷の身ともあろう貴様がこのわしにたてつこうってことだな!!」
「さあな、俺の言葉をどう受け取ろうとアンタの勝手だが、俺のことはしっかりと名前でよんでもらうぜ!!」

双方、かなり激情している様子だった。

「お前の名など知ったことじゃない。だが、わしにたてついたことは、貴様の命で思い知ってもらおうか!!」

奴隷主である男は、懐から怪しげなボタンを取り出し、怒りに任せてそのボタンを強く押した。
すると、突然怒鳴りあっていた一匹の仔龍は突然ひざをつくようにして倒れた。

「ぐっ!?あああぁぁ・・・っ!!」
「フン・・・奴隷風情がこのわしにたてつくからいけないのだ・・・しばらくそうやって苦しみながら・・・死ね。」
「ううああぁぁ・・・」

まるで物の怪に取り付かれてしまったかのように、苦しんでいるのか発狂しているか分からないような声をあげながら。死は近づいていった。
そして、その死に際に仔龍は精一杯の力を振り絞って言い放つのだった。

「名前も・・・呼べないよう・・・な・・・クズヤローは・・・いつか・・・殺・・・す・・・」

そして仔龍は息をひきとった。

「フン!呪い殺す前に死におったか!まあ。奴隷ごときがこのわしに叶うはずなどないということだ。」

息をひきとった仔龍の顔は死してもなお、苦しみに満ち溢れていた。まるで死んでも永遠に苦しむかのように。





「・・・これはやばいですね。どうしましょう?
・・・はい。確か、2匹ほどいたはずです。
・・・分かりました。では数日後から・・・」

その声は、奴隷の主の家から少し離れた家からした。


それから数時間後だった。怪我で手当てを受けた仔龍は、一緒に働いていた仔龍の死体を見たのだった。
なにかおかしいと思っていた。昨晩はやけに騒がしいが、怪我の治癒をすばやく行うためにそのまま床についた。が、その間にひとつの命を失ったのだ。彼は、どこにもぶつけられない憤りを感じていた。最初はひとつの命すら救えない自分に対して。後に、同族の命を奪った者に対して。


「兄さん・・・」
「・・・大切にしても、失ってしまうものってあるんだな。」
「・・・え?」
「ちゃんと教えてやったんだ。お前が、俺に言ってくれたように。アイツもそれは理解してくれていた。」
「・・・」
「でも悲しみは無くなってしまったよ。」
「兄さん・・・?」
「・・・妹よ、お前は俺のようになってはダメだぞ。」

話を終えると、怪我を手当てしてもらった仔龍はまた自分の持ち場に戻っていくのだった。

一方、残されたもう一匹はなにやら考え続けていた。自分の兄の様子がおかしい。感情が強く現れる兄が、泣き顔を見せないなんて事があるものだろうか、と。
しかし、兄の成長という結論を考えたら、それは当たり前かのようにも思えた。考え込んでいた仔龍も、立ち上がって自分の持ち場へ戻っていった。

彼らの働く時間は、早朝4時からその日の夜12時までだ。奴隷主は若くないので、さっさと寝てしまうので、丸一日働くわけではないのだが、起きる時間が早い。奴隷主よりも遅く起きれば、それだけで鞭打ちなのだ。また、彼らの体は成長期の段階にある。
彼らは人間でいうとちょうど9歳にあたる年齢なのだ。龍は基本人間よりも長寿なため、ゆっくりとした成長ではあるが、こういった奴隷生活による睡眠時間の低下や、栄養失調は今後の成長に悪影響を及ぼすのは間違いない。


一匹が殺されてしまった騒動のあった次の日の昼過ぎ。奴隷主の家の扉をたたく音がした。どうやら客人のようだ。だとしたら、自分たちの姿を見せるわけにもいかない。

コンコン、と書斎の扉をたたく
「入れ。」
「失礼します。ご主人様、お客人がいらっしゃったようです。」
「そうか。今いく。お前たちは部屋にいろ。」

やはり言われた。体のあちこちにバンソーコーをした仔龍は、静かに自分の部屋に入っていった。

「おはようございます。」
「やはりお前だったか、ヴァーリ。ちなみに今は昼過ぎだぞ。まったく、お前らの組織の情報伝達速度は恐ろしいものじゃな。」
「お褒めの言葉として頂戴させていただきます。」
「で、今日はどんな要件だ。最近はわしも忙しくてな。手短に済ませてくれるか。」
「ええ、ええ。お時間はお取りいたしません。・・・本日訪ねた理由はほかでもない。お宅に新しい奴隷をお持ちしたのですよ。」
「・・・そうか。どんな奴だ?」
「こちらでございます。」

ヴァーリという人物の後ろから出てきたのは、少し大人びた雰囲気のある、地龍の子供だった。その仔龍は、首もとに奴隷身分を表す首輪をつけていた。

「初めまして、ご主人様。今日からご主人様に誠心誠意お仕えさせていただく、奴隷19804211番でございます。」
地龍の子供は深々とお辞儀をした。

「ふうむ。ヴァーリや、最近お前たちの組織はなんというか、教育がうまくなったか?」
「はい。内部事情が大きく変わりまして、教育方法も大幅に改善されたので。」
「なるほど。・・・まあ、そういうことだ。少し可哀そうでもあるが・・・今日からお前も我がスプラング家に仕える奴隷だ。覚悟して働くんだな。」
「かしこまりました。ご主人様の手となり足となって働かせていただきます。」

そういって、再び深々とお辞儀をした。

「・・・長いわね。」
「そりゃあ、ご主人のことだ。一応アレでもこの世界では偉い奴なんだろ?」
「でも・・・だとしたらなおさら玄関で話していたらおかしくない?」
「・・・フン。俺の知ったことじゃないな。その客人に殺されてしまえばいいのさ。そうすれば、俺たちもまた外に出られる。」
「それは、そうだけど・・・」
「静かに。」

話している所を静止させられた。すばらしい判断だった。この家では、基本私語は許されない。奴隷主に聞かれたらひとたまりもない。きつい罰を受けるのだ。
しゃべることをやめさせたのは、奴隷主の足音がしたからだった。

「もういいぞ。出てくるんだ。」

二匹は、少し気だるそうに部屋を出た。


「っ・・!」

部屋をでた二匹は、言葉にできないような何かをつぶやいた。

「察しがついたか?まあ、一応紹介しておこうか。今日からお前たちと一緒に働く新しい仲間だ。仲良くするんだな。」
「よろしくお願いします。」

深々とお辞儀をするのは、先ほどのヴァーリという人物が連れてきた新しい奴隷であった。
奴隷といえば、その主人である存在に怯えながら暮らすのが一般的なイメージである。だが、この一匹は違ったようだ。まるでメイドのように、主人に誠心誠意仕えようとする心が見える。

「今日は仕事を終えてお前たちで部屋に待機しておれ。」

奴隷主の珍しく気分がよかったようだ。新しい一匹を迎えいれた三匹は、足早と部屋に入って行った。



「・・・」
「・・・」
「・・・よぉ。」

バンソーコーをしている一匹が口を開いた。

「・・・なんでしょうか。」
「・・・なんというか・・・」
「はい。」
「俺はお前のことがよくわからない。」
「そりゃあ、私はあなたとは初対面ですからね。わかるほうが不思議ですよ?」
「いや、そうじゃなくて・・・なぜ、ああも進んで仕えようとする?ひどい仕打ちが過ぎるような扱いが普通なのが奴隷ってものだ。それがこの世界では常識とさえされているはずだ。
なのに、なのにお前はどうして奴隷にまでなってこの家の主人に仕えようとするんだ?何か思い入れでもあるのか?それとも、あきらめたことで開き直ったりしたのか?」
「んー、大方そんな感じでしょうかね。ま、私はご主人に精いっぱい仕えさせていただきますよ?そのためにこの世に生まれたといっても過言ではないでしょうからね。」
「てめぇ・・・どういうことだ。」
「どうもこうも、私は生まれて物心つく前から奴隷という身で、仕えるための経験をいろいろなご主人から学んだ、そしてこのご主人でその経験を生かそうということです。何か不自然ですか?」
「・・・」
「ふふふ・・・そうですねぇ。私の経験上、仕事を共にする方とはコミュニケーションをしっかり取っておきたいのです。私もあなた方とは仲良くしていきたいのですよ。どうです?仲良しの証として、握手でもしましょうよ。私の名は――」
「奴隷だというのに名前があるのですか?」

怪我した仔龍を手当てした一匹は、美しい毛並みの水色の体毛が数本抜け落ちたことなど気にかけないように、少し警戒するような態度で訊ねた。

「別に隠す必要もないと思いますよ。あなたたち、奴隷総合管理センターで登録を受けた奴隷なのでしょう?私も同じですから、ここに来る前に必ず自分の本名を知っているはずですからね。」

どうやら、奴隷に対する管理が非常にしっかりしているようだ。新たにやってきた一匹の話によると、奴隷総合管理センターというところでは、これから奴隷であるべき者として最低限知っておくべき知識教養や、体力、精神力の育成を行ってくれる。
要は、奴隷の専門学校のようなものらしい。ただし、自分で望まずとも誘拐されて連れてこられてここにやってくるものがほとんどで、基本的には自らの意思で門を叩くどころか、施設に近づこうとする物好きは基本的にいないという。

つまり、ここにいる三匹とも自分の本名は知っているはずなのだ。

「なるほど、そういうわけだったのですね。」
「ええ。では、改めてお聞きしますけれども――」
「他者の名前を聞く前に、まず自分から名乗ったらどうなんだよ。」

身体のあちこちにバンソーコーを貼っている一匹は少し不機嫌そうに言った。しかし、臆せずに新たにやってきた一匹はこう言った。
「おっと、これは失礼いたしました。私は奴隷19804211番改め・・・名前をフィル、と申します。どうぞお見知りおきを。」
「フルネームでは名乗らないのか。」
「おや、フレンドリーなコミュニケーションを取るときにはフルネームなんて邪魔くさいものはいらないのですよ。それに、ファーストネームのほうが基本的に呼びかけやすいでしょう?」
「・・・」
「・・・チェスカよ。」

手当てをした、水色の体毛を持つ一匹はそう名乗った。
「おお・・・素晴らしいお名前ではありませんか、チェスカさん。よろしくお願いします。」
フィルと名乗った仔龍は、握手をしようと手を差し出した。それに応えるように、チェスカも手を出し、二匹とも握手をした。

「さて、そちらは・・・」

目線はまだ名乗っていないバンソーコーをした一匹に向けられる。その一匹は、腕を組んで、あさっての方向を向きながら言った。

「・・・ユニだ。」
「ほうほう、これもいいお名前・・・では、ユニさん。よろしくお願いします。」

と、これまた握手しようといわんばかりにフィルは手を差し出してきたが、ユニは少し戸惑っていた。ユニは、突然目の前に現れてフィルと名乗った仔龍を本当に信じてもいいのか迷っていた。こいつは主人が自分たちを監視するために送り込んだスパイみたいな奴じゃないのかと、どうしても頭の中に考えてしまう。
本来ならば、殺されてしまったアイツと同じように接して、助け合っていつかこの家を抜け出せるような日が来るまで共に働こうとするべきだ。しかし、今目の前にいるフィルという得体の知れない「物」は、アイツとは違う。突然外から来た部外者だ。信じる余裕など無きに等しい・・・と。ユニの心は、信じるという意思を失ってしまったようだ。

そして突然、ユニは気づいた。チェスカがこちらをものすごい剣幕で睨んでいるということに。なぜ睨まれたか、最初は全く気付くことができなかった。自分のことでいっぱいになっていた思考を切り離した瞬間、その意図が分かった。そしてユニは浮かない顔のままフィルと握手を交わした。

「まあ、よろしく。」
「おや、浮かない顔ですね。まあ、突然現れた私のような者など簡単に信用できるはずもありませんよね。分かりますよ。なんせ、私は様々なご主人様のところに行っては余所者を見るような目つきでこちらを睨まれてしまいますからね。もう慣れてしまったのですよ。今回も同じところでしょうかねぇ・・・。あ、そうそうチェスカさん。御手洗いはどこでしょうか?何せ長旅だったもので、長らく用を足していないのです。」

チェスカは手洗い場としている草むらの場所をフィルに丁寧に教えた。フィルは、どことなく寂しそうな表情を垣間見せた後、部屋を出て行った。

「チェスカ。お前、あんな奴を信用するのか?」
「どっちにしろ、一緒に働くのだとしたら、ここで関係を悪くしていたら後々面倒と思っただけよ。」
「それはそうだけど・・・。」
「あと、別に彼のことを信用しているわけではないわ。ご主人は何も感じなかったでしょうけど、代わりの奴隷を呼ぶのが早すぎる気がするわ。特に手が足りないというわけではないのに、次の日に即人員補給だなんて普通なら考えられないわね。」
「普通なら、だろ。そもそも俺たちがここで主人の生活の支えとして働いている所で、すでに普通じゃない。・・・俺は何か裏があるんじゃないかって思うんだ。」
「でもそう考えるんだったら、まず奴隷を管理センターで管理するところからおかしいんじゃないかしら。」
「それもそうだな・・・今更になって考えてみれば、不自然な点はたくさんあるようだ・・・。」

二匹のなかで何かが動き出した。ユニにはそう感じられた。長年止まっていた時間の歯車が、何らかの事象によって動き始めたかのような・・・



二匹とも再び沈黙を保っていると、足音がコツン、コツン・・・と、鳴り響いてきた。どうやら奴隷主が来たようだ。

「おい、フィルはいるか。」
「いいえ、フィルはいません。」
「そうか。帰ってきたらわしの書斎まで連れてくるように。」
「かしこまりました。」

チェスカは素早く受け答えした。奴隷主はすぐに去って行ったようだ。

「・・・そういえば、フィルの帰りが遅いような気がするな。」
「そうね。御手洗いの場所わからなかったのかしら。ちょっと私が見てくるわね。」

そういってチェスカは立ち上がり、フィルを探しに部屋を出て行った。ユニは誰もいない部屋で、ただ独り窓の外を眺めていた。
水のせせらぎが心地よく聞こえる部屋だ。近くに川があるらしい。すでに日は落ちて夜。月がはっきりと見える雲一つない空だ。実際には草木に邪魔されているため、その合間からでないと月は見えない。露に濡れる草は、月明かりに照らされ輝く宝石のように見える。ユニはそのまま座り込み、空を眺めた。
川のせせらぎに邪魔されて聞き取りづらいが、集中して耳を澄ませると虫の鳴き声が聞こえてくる。つい2週間くらい前まで、ミンミンと五月蝿い虫が鳴いていたがその声も聞こえない。季節が変わったのだろう。外に植えてある樹に付いている葉っぱも、活き活きとした深緑の色を失い、紅葉を感じさせる赤に変わりつつあった。

「あの五月蝿い虫の名前ってなんていうんだっけ・・・たしかお母さんが・・・」

ユニは座ったままにもかかわらず、自分の母が言っていたことを思い出そうとする最中、だんだんと瞼が閉じていった。

「お母さんが教えてくれたけど・・・思い出せないや・・・」

そしてユニは眠りについた。



一方のチェスカは、ちょうどフィルを見つけて奴隷主の部屋に向かっている所だった。フィルはトイレがある場所と全く違うところで迷ってうろうろしていたようだ。

「いやあ、すみません。やっぱりあなたに案内を頼んでおけばよかったですね。」
「そうね、先に建物の中をすこしまわっておこうかしら?」
「いやあ、ぜひお願いしたいところですが今は遠慮しておきましょう。ご主人様に呼ばれている身ですから、のんびりとしている時間はあんまりなさそうですし。」

と言ってはいるものの、急いで主人のもとに向かおうというそぶりは全く見られない。むしろ、のらりくらりと歩いているようにすら感じた。

「あんまりのんびりしているとご主人が怒って私たちにいろいろ言ってくるかもしれません。ちょっと急いでもらえますか?」
「おっと、これはすみません。」

それでもなお、フィルからは急ごうとする姿勢は見られなかった。仕方なく、チェスカはフィルのペースにあわせるように奴隷主のいる部屋までフィルを連れて行った。

コンコン。
扉をノックして、声をかける。

「ご主人様、チェスカです。フィルを連れてきました。」
「そうか、フィルだけ部屋に入ってきてくれ。」
「かしこまりました、ご主人様。ではチェスカさん、また後で。」

そう言ってフィルは奴隷主の部屋に入っていった。チェスカは、フィルと奴隷主がどのような会話をしているのか気になった。扉に耳を当てて盗み聞きをしようとしたが、全く音が聞こえなかった。防音の魔法が働いているのだろうか。
とりあえず、やることがなくなってしまったチェスカは自分の部屋に戻ることにした。自分の部屋に戻る途中、窓が一つだけ開いていた。廊下の窓を開け放すことは滅多にしないことだった。とりあえず夜も遅く、不用心なので鍵をかけて閉めておいた。

自分の部屋の前に来たチェスカは、しっかりとノックをして部屋に入った。扉はかなり傷んできているようで、そろそろ交換する時期か・・・と思いつつ部屋に入ると、黙りこくって座っているユニが最初に目に入った。考え事をしているように見えた。

「正直、フィルは信用できるか私にだってわからない。いつもうちに来る奴隷とは違うのよ。おびえながら来るどころか、笑っていた。不思議な笑みを浮かべていた。兄さんだってそれはすぐに感じたはずよ。」

ユニはきれいな姿勢のまま座って黙っている。

「そういう点では怪しいし、何か企んでいるかもしれない。けど、ここでトラブルを引き起こすことは私たちにデメリットしかもたらさないと思わない?しばらくはこのままおとなしくしている方が得策よ。感じ悪そうにも見えないし、私たちになにか危害を加えるようなことはまだないと思うわ。」

ユニはなかなか反応を示さない。

「あのね、いくら兄弟の仲だからって、真剣な話をしているときくらい目を見たらどうなの?・・・あっ。」

チェスカは、何の反応も示さないユニに対して若干苛ついていたからか、怒鳴りつけた。しかし、すぐに気付いた。ユニが反応を示さないのは、そのまま寝ていたからだ。

「器用なのね。・・・私も寝ようかしら。」

きれいな姿勢で座っているユニを横にして、かび臭く使い古したボロボロの毛布を掛けた。その横で、チェスカは薄手のタオルケットを自分にまきつけるようにしてそのまま横になり、寝息を立て始めた。
今日の夜は少し冷え込んでいるのか、チェスカは少し寒そうにしていたが我慢した。

夏の残暑も過ぎ去り、季節は秋に近づいてきていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


次の日の朝

ユニが目を覚ますと、チェスカとフィルはまだ寝ていた。どうやら一番早く起きてしまったようだ。散歩にでも行きたい気分ではあるが、それは禁じられている。家の外に出ようとすると、首のところについているおかしな機械のせいで電流が流れてくるらしい。

「思えば、アイツもそういう形で殺されたのか・・・?」

ほんの少し前のことだったためか、思い出してしまう。が、それほど深く考えなてはいなかった。とりあえず、早起きをしてしまったせいでなんとなく暇だった。窓に近づいて外を眺める。あいにく、窓を開けようとしても電流が流れるだけなので、窓は開けない。ユニは一度体験しているため、窓に触れる寸前でスッと手を引っ込めた。ただ、いろいろな部屋で試した結果、電流が流れるのは自室の窓を開けた場合のみであって、他の部屋の窓なら開けても問題はないらしい。かといって、その開けた窓から外に出たら・・・

外は深い青色が少し明るくなるくらいの色をしていた。時計を持たされていないので、察するに午前2時30分ごろだろうか。ユニの奴隷主の家があるこの地方は、大体4時ごろには日が出てきている。
静かに鳴き続ける虫の声はまだ聞こえる。いつになったら寝るのだろうか。

「・・・お母さんが教えてくれた虫の名前が思い出せない。忘れちゃった。」

結局、寝た後でも思い出せなかったようだ。ただ、ユニは寝ている間に気分がよくなったようで、思い出せないことを気にすることもなかった。少し早すぎる気もしたが、とりあえず自分の部屋を出てトイレに向かった。

トイレのような、こぢんまりとしている個室はその部屋にいる者の心を落ち着かせ、神経を研ぎ澄ますことができる。トイレに落ち着いたユニは、昨日考えていたことを再び考え始めていた。ユニは、15年にもわたってこの奴隷主のもとで働かされていた。ただ、その扱い方が奴隷とはかけ離れて優しいものであったことがとても気になったのだ。
そもそも、奴隷というものはもとより生きる価値がないものとしているものだ。ユニはそう思っていた。にもかかわらず、ここでの生活はそこまで不自由でもなく小部屋まで持たされているのだ。それこそまるで、メイドとして雇われたかのような。裏側で何かが動いている影響ということなのだろうか、それはただの思い過ごしなのか、そもそも奴隷というものはどういうものか・・・それらのことは、トイレに閉じこもっているユニでも分からなかったようだ。
こういう時こそお母さんがいれば・・・ユニは心からそう思っていた。


ユニとチェスカには母親がいた。たった一つのかけがえのない存在ともいえる大事な母親だった。もちろん、奴隷として自分の家から離れてしまったユニとチェスカは長い間母親と会っていない。離れ離れになってしばらくは、不安で寝られない日が続いていた。時には泣いたりもした。泣いていれば母が来てくれる、助けてくれるんだ、そう思って声を枯らせきるまで泣いた。でも来なかった。母親は来なかった。それから泣くことをやめた。母親は助けてくれないと悟った。
それからだった。急に大人びた様子になったと周りからも言われた。でも笑うことも少なくなった。友と呼べる仲間が少なかった。ほとんどいなかった。ほしかった。でもこんな自分たちを見て、周りからはどんどん子供はいなくなり、怖い大人の人たちが自分の周りに近づいてきた。そして、こんなことになってしまった。


どうしてチェスカだけでもこんな悲惨な目にあわせずに済まなかったのか。後悔しても遅かった。ユニはボーっと扉のドアノブを見つめる。トイレには換気用の小さい窓がついている。鉄製のドアノブは、ユニの目線から窓が何とか見える。そしてその窓の様子をかすかに映し出すものを見て、ユニはあることに気付いた。
それを確かめるためにふとトイレについている窓に目を向けると、すでに空が明るくなり始めていたことが分かった。耳を澄ませると、扉を開ける音がしている。方角的に、チェスカとフィルがいる部屋のようだ。足を爪がひっかくような音もしている。どうやら、トイレに閉じこもって時間が過ぎていつの間にか起床予定である時間は過ぎていたようだ。ユニは、少しあわて気味にトイレを出て、自分の部屋に向かった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ユニがトイレから部屋に戻るとき、フィルとすれ違った。すでに準備を終えて、朝食を作るために食堂に向かっているようだった。ユニも急いで朝食を作りに行く準備をするために、部屋に駆け込んだ。すると、部屋には準備を終えて部屋を出ようとしているチェスカがいた。

「おはよう、兄さん。」
「おう、おはよう。」
「兄さん、いいこと教えてあげようか?」
「いいことなんて・・・あった試しがないじゃないか・・・」
「とりあえず聞きなさい。いい?寝るときはちゃんと身体を横にして寝なさい。それじゃ。すぐに来てちょうだいね。」

そう言ったチェスカは、にっこりとした後部屋を出て行った。
ユニは、目覚めたとき毛布を掛けていたことを思い出した。そして、チェスカが毛布を掛けてくれたということも悟ったようだ。

「こんどなんかお礼して・・・できるか分からない、か・・・」

自分のいる立場を再度思い知ったユニは、少し気落ちしたままではあるが、準備を手早く済ませて部屋を後にした。

ユニが部屋をでて40分ほどしたころだろうか。目を覚ました奴隷主と、ユニたちは食堂にいた。

「またトマトスープなのか?」
「しかしご主人様、材料はもう底を尽きてしまって、かろうじて私たちが用意したものしか無くて・・・」
ユニは珍しく丁寧な言葉で奴隷主話しかけていた。チェスカは少し驚いた様子で下を向き、フィルは何食わぬ顔で奴隷主の目を見ていた。

「なんとかして用意しろと昨日言ったはずだぞ!!もう何日もこの赤い液体を見てうんざりなんだ!!」
「も、申し訳ございません・・・」
「結局お前も使えない道具だったか!まったく・・・ヴァーリめ・・・」

奴隷主は貧乏ゆすりをしている。相当苛ついているようだ。今回はどちらにも非がある問題だったが、この場合は双方の立場でその場の流れが変わってしまうものだ。

「いつまでもこの目障りなスープをワシの目の前に出したままにするんじゃない!!」

と、奴隷主は叫んだ途端、スープ皿を手に取り、投げる体制をとり、そのままユニ・・・ではなく、その隣にいるチェスカに投げつけた。

「・・・っ!!!チェスカぁ!!!」
「っ!?」

ユニがスープ皿の行先に気付き、手を出した時には、既に遅く、スープ皿はチェスカの方に当たっていた。不運にも、チェスカ自身がトマトスープでびしょ濡れになっただけでなく、スープ皿が割れてしまい、その破片で左腕を少し切ってしまっていた。当然、そこから鮮血が流れていた。ユニは、ついに冷静でいられなくなった。

「おいてめえ!!俺の妹に何しやがる!!」
「フン、当然の報いだと思え。・・・いや、お前たち、兄妹だったのか?」

しまった。と、思ったが、そのままユニは言葉を続ける。

「そうだよ!俺のたった1匹の妹だ!それがどうしたんだよ、あぁ!!!?」
「そうかそうか・・・面白くなってきたではないか。いいだろう。お前にいいものを見せてやろう。」

そう言って、奴隷主は懐からスイッチのような何かを取り出した。それは、数日前にも見た、あの、スイッチ。

「っ・・嫌・・・!!」

チェスカは怯える。体が震え、傷口をおさえる力がより強くなる。

「・・・っ!!待てっ!!」

そしてユニは悟る。

「お前の苦しむ姿が目に見えるなぁ・・・じゃあな、恨むなら、ワシにはむかったそこの兄を恨め・・!!」

奴隷主がスイッチを深く押し込もうとしたその瞬間・・・!!




ガンッ!!!




と、陶器を机に叩きつけるような音がした。いや、誰かが叩きつけた。奴隷主の目の前に、赤いトマトスープが入ったスープ皿が置いてある。少し、机に飛び散っているようだ。
その大きな音が、奴隷主がスイッチを押す直前に踏みとどまらせた。
そして大きな音のそこには、フィルがいた。フィルが、奴隷主の前にスープを叩きつけた・・・のではなく、置いたのだ。

「・・・?」

ユニとチェスカは、何が何だか分からなくなり、ただその皿を見つめていた。

「・・・フィルや。これは、どういったつもりだ?」

フィルはゆっくりと口を開く。

「トマトスープに飽き飽きしているのでしたら、こんなひと工夫はいかがでしょうか?」

そう言ったフィルは、素早く、的確に、奴隷主の左胸に向かって拳を振りかぶった。
奴隷主は、その声が後ろからしたため、振り向く。

フィルの手の先には、太陽の光にさらされて白く輝く、銀色のナイフが。

そして、そのまま・・・


ザクッ!!


音を立てて、突き刺さる。
ナイフにフィルの力強さが手助けして、一突き。貫通した。

そして、その貫通した穴からは、鮮血。その鮮血は、スープにボトボトとこぼれ落ちる。

そして、フィルは自分の腕をその自ら開けた穴から抜き去り、突然の出来事に愕然としている顔の奴隷主を仰向けになるように蹴り倒す。
そして、スープ皿を持ち、倒れた奴隷主の口に、乱暴に、垂れ流した。

「よかったですね、ご主人様。とっても美味しそうなスープが出来上がりましたよ。」

フィルはにこっとしたまま、その言葉を言い放ち、スープ皿を机に置いた。
一方で、何十年と奴隷主として忌み嫌っていた存在が、目の前で無残な最期を遂げてしまったのを間近で見ていたユニとチェスカも、同じく愕然としていた。突然の出来事で、身体が動かせない状態だった。
そこに、返り血で血まみれになったフィルが近づいてくる。ユニとチェスカは、本能的に、次は自分たちが殺される。そう思った。

しかし、結果としては違った。

「さて、そこのお二方。貴方たちもこれで自由の身となったわけですが・・・ああ、申し訳ない。こんなみっともない姿で。ですが、これからいう私の話を少し聞いてもらいたい。とりあえず、落ち着いてもらえませんか?」

ユニとチェスカの答えを聞く前に、フィルが行動に移った。

「冷静(コーネス)」

フィルがそう言うと、ユニとチェスカは、正常的な思考力を取り戻してきた気がしてきた。

「ありがとうございます。じゃあ言いますね。」

ユニとチェスカは、そのままコクリと頷いた。

「どうせ自由の身となった訳ですし、どうです。ここは・・・あなた方の母親を探しに行きませんか?」

フィルは静かに、それだけ言った。

ユニとチェスカは、目を大きく見開いた。そして、二人は実感した。


時間が、動いた。
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